ドイツレポート
1、はじめに

 2001年9月2日から8日までの一週間、衆院議員梶山弘志を団長として1年生衆院議員12名がドイツを訪問した。

 目的は、原子力政策と循環型社会を目ざす環境問題である。

 ドイツと日本は国土の面積では大体同じ、人口もそれぞれ8千6百万人、1億2千6百万人と、日本がやや多いだけである。しかし、1人当たりの平地、つまり使用可能面積でみると実にドイツは日本の数倍ある感じである。私達が走ったほとんどは、山がなく平地であった。これは、ドイツの国土が2億5千年前の氷河で削られた跡だからである。日本は75%が山であり、残り25%の平地に暮らしている。日本との決定的違いは、使用可能な土地が日本とは比べものにはならない位あるということである。このことは、ドイツのあらゆる分野でのコストを安くしている理由のひとつと私は考える。

 福島県は首都機能移転を目ざしている。その地域は「森にしずむ都市」を唱っている。ドイツに行って、まさにドイツは「森にしずむ国」と形容できるほど、森がたくさんある。アウトバーンなど左右は全部森である。この森が産業革命時代に全部伐採され、今あるのは植林木と聞いた。飲料水は全て地下水である。上水場でろ過し、三次処理までした水を森へ散水し地下水にして飲むと昔聞いた事があったが、現地で森を見て納得できた。

 人間の命の原点は森にあることをドイツ人は、森を失った時に肌身で理解したのだろう。 



地下800mに降下するための準備

(写真をクリックすると
拡大してご覧いただけます。)
2、原子力政策

 ドイツの原子力政策は、社会民主党(SPD)と緑の党が脱原子力を掲げ選挙で勝利し、その公約の実行として脱原子力政策を進めている。

 ドイツ連邦政府と電力事業者の間で2000年6月に「原子力コンセンサス」を合意。2001年6月に署名された。丁度、我々が訪問していた2001年9月5日に「原子力コンセンサス」の具現化として「原子力法改正案」が閣議決定されたところである。

 なぜドイツは、電力発電量の30%を原子力に依存しながら脱原子力の方向にいったのか、私にとっての大きな疑問であった。確かに核分裂による原子力エネルギーは、プルトニウムなど核分裂生成物を作り、その半減期は長いもので24,100年など、人類が管理できない物質を作り出す。

 私は、原子力エネルギーの持つ本質的な負(=人類は管理できない)によってドイツは脱原子力に向いたのかなと思っていた。しかし社会民主党(SPD)のエネルギー政策の責任者ユング議員や、政府の原子力安全局長などとの懇談の中で、原子力の持つ本質的な負によるものもあるが、1986年に起こったソ連のチェルノブイリ事故によるドイツ国民のショックが脱原子力を決めたと感じた。

 高レベル廃棄物最終処分場計画地であるゴアレーベンの岩塩層を見た。地下840m、同行の議員ともども日本の国会議員としては初めて地下まで行った。

 この岩塩層は年間10cm位縮んでいるとの話。通訳のまちがいではないかと思い、再度質問しても答えは同じ。塩の結晶化のため、現在は年間10cm縮むが結晶化が進めば縮む速度は遅くなる。この結晶化を利用して、高レベル廃棄物を琥珀のように閉じ込めてしまうのである。しかし新政権になり、ゴアレーベンでの処分場計画も現在中断している。

 原子力コンセンサスで2005年7月1日以降は、使用済核燃料は再処理せず、直接処分とすると合意されている。

 現在ドイツではMOX燃料によるプルサーマルが行なわれている。ドイツ国民は日本のようにプルサーマルについて反対運動はない。これは今の原子炉でもプルトニウムが作られ、そのプルトニウム自身も燃えており、燃焼の後半はプルサーマルとなっている。このことをきちんと理解しているからだと思う。

  ドイツはあっさりと原子力サイクルを捨てた。脱原子力を決めた国としては当然だろうが、脱原子力が達成されるのは20年先である。あと20年間は原子力発電所は稼動するのである。使用済核燃料―再処理―MOX燃料―プルサーマル の原子力サイクルが、あっさりと捨てられた。政府高官の話に、高レベル廃棄物の輸送の反対運動を強調しているところがあったが、こんな理由で原子力サイクルを捨てたとは情けない。

  日本では、原子力政策の根幹として原子力サイクルを位置づけているのに!



ゴアレーベンにある高レベル放射性廃棄物処理施設(予定)にて

(写真をクリックすると
拡大してご覧いただけます。)
 ドイツ国内の30%の電力シェアを持っている原子力がなくなった場合、代替エネルギーは何を考えているのかが我々視察団の質問の的であった。政府高官の話しでは風力発電など、再生可能エネルギーを今の倍にする、省エネも組み合わせて対応するとのことであった。

20年後まで努力はするが後は何とかなるだろう、との感じが伝わって来る。これは日本のような島国と違ってヨーロッパ大陸の中のドイツであり、電力のやりとりも自由に行われている現実がある。エネルギーに対する危機意識が大陸と島国とで違いがあるように思われた。
3、循環型社会を目ざす環境政策

 ドイツ訪問の第2の目的はドイツにおけるリサイクル社会構築のため先進的な施策をみることにある。

 私は福島県議会議員当時、「ゴミは資源なり」を提唱した東京都の初代公害対策課長で後の東京都立科学技術大教授山口保男先生のご指導をいただき、ゴミ問題について勉強した。ドイツではゴミは燃やさない、埋立をし、発生するメタンガスを利用していると理解していた。「ゴミは資源」なのにどうして燃やしてエネルギー回収をしないのか、燃やせば、有害物質の発生がある。燃やさないことで有害物質の発生を未然に防ぐためなのか。私は燃やさない理由をこのように考えていた。今回の訪問でこの疑問に答えを見つけたいと思っていた。

 国土の75%が山で、25%の平地に1億2千6百万人もの人が住む日本では、ゴミを埋め立てる土地はふんだんにはない。ドイツ国内をバスで移動し初めて、ドイツはなぜ埋立が多いかを理解できた。何ら難しく考える必要がなかった。土地があるから埋立なのだ。

 ドイツで大きな焼却炉を持つ、エッセンにあるAGR社を訪問した。ここでは産業廃棄物である廃油、一般廃棄物である通常のゴミなどを同じ施設で焼却していた。そこでの話でも「ゴミは資源なり」の思想を聞かされた。ゴミはリサイクルし、最後に焼却し、熱エネルギーにして利用する。熱エネルギーもリサイクル率にカウントしている。動物の死骸も、利用できる物があれば焼却させない。

 自動車リサイクルについてフォルクスワーゲン・リサイクルセンターを、コンピューターリサイクルについて富士通シーメンス・リサイクル工場を視察した。どちらもまずリ・ユースであった。リ・ユースできるよう製造段階での設計まで手を加えている。リ・ユースできないものはリサイクルである。どちらもプラスチックの再利用には工夫を凝らしていた。最後に焼却をする。
 私は焼却灰について質問をした。なんと、焼却灰は道路の路盤材に利用しているとの答えが返ってきた。成分表もなく、基準値内ですとの答えである。日本では考えられないことである。

 しかし、帰国し、我が家に帰ってきて庭に咲く秋の草花を見ていた。我が町は30cm穴を掘ると石炭火発の焼却灰がでてくる。町のいたる所が焼却灰で埋立をし、町づくりをした所である。時も40年以上経過している。誰も健康被害を受けた人はいない。焼却灰を入れ替える計画もさらさら無い。ドイツのリ・ユース、リ・サイクルを深めれば自然界の物であれば、「使えるものは使う」という発想があるのかもしれない。

 小さなマイナスよりも大きなプラス、日本もドイツのように「使えるものは使う」との発想をもっと検討すべきと考える。


家電リサイクル施設
(富士通シーメンス)にて

(写真をクリックすると
拡大してご覧いただけます。)
4、終わりに

今回のドイツ訪問でのドイツのすごさは、決めたら、実行することである。我が日本ではこれがなかなかできない。

 ベルリンで朝の散歩をした。近くの駅に行って、プラットホームまで入ってみた。なんと若者が自転車を電車の中に入れていた。これなら車の通勤もいらない。大気汚染の原因にもならない。ドイツはお金をかけずに知恵を出している。知恵を出したら実行である。

 いま小泉改革である。今までよりは実行できる内閣と思う。知恵を出して、実行しよう。

【ドイツ訪問 平成13年9月2日〜9月8日】

(平成13年9月20日 記す)
衆議院議員 吉 野 正 芳

■まさよしレターインデックスページへ戻る■
◆ご意見をお寄せください◆
[ トップページ ] [ まさよしレター ] [ プロフィール ] [ 活動報告 ]
[ 事務所案内 ] [ 後援会員募集 ] [ ご意見箱 ] [ リンク集 ]

この web site に掲載されている記事、写真などの無断転載を禁じます。
全ての著作権は吉野正芳及び吉野正芳事務所に属します。